100年ぶりに記録更新をした11月の夏日から数日後、12月並みの気温のこの日、第三回〔訪問らくご〕が開催されました。
公園のすぐ隣にある赤い屋根の洋風な建物が、今回の会場の上石神井幸朋苑。普段こちらの公園は、近所の保育園から遊びに来る園児たちを見守りながら、利用者さんたちも散歩しているそう。
最近、利用者さんと職員さんの間では、こんな会話で盛り上がっていました。
「寄席ができるよ」
「落語家さんが来るんだって」
「それじゃあ、行ってみようかな」
午前11時30分。朝からの雨もあがり、幸朋苑のアカンサスホールでは高座が設営されていきます。特養の地域交流ホールが、寄席に早変わりです。
時計はまもなく12時。師匠が到着されます。
今回の出演者は三遊亭遊馬師匠。会場に入ると、さっそく高座にあがり、客席を見渡します。
「もう少し席が近い方がいいですね」
「音は大丈夫かな」
今日のお客様は50名弱。ホールに椅子が並びます。これまでの会場は車椅子の方がほとんどでした。師匠の確認も終えて、席の配置を決め、準備が整ってきました。
会場ではスタッフと施設長の打ち合わせが続きます。寄席は一番太鼓で開場し、二番太鼓が鳴るとまもなく開演。出囃子が流れて落語家の登場、となります。施設長も太鼓の音を聴きつつ、慣れない寄席の習わしにドキドキしながら、進行のタイミングを確認しています。
めくり台も準備され、スタンバイ完了したら
『訪問らくご』名物のランチタイムです。
今日のランチは"とんでん弁当"。
お寿司系にしようか、お肉がいいか…おかずもたっぷりボリューム満点です。
13時30分 エレベーターから、最初のお客様が職員さんと降りてきました。会場には一番太鼓が響いています。シルバーカートを押したり、杖をついて、訪問らくごのポスターを眺めながら歩いてみえます。
「お席は、こちらね!」
今日は指定席。
職員の皆様が椅子にお名前を貼って、手元の座席表と見比べながら、テキパキとご案内をしています。ご家族の方も並んで一緒にご覧いただきます。
「こんな場所があったんだ、初めて来た」
「いいところ(寄席)があって」
「最近笑うことがないから、今日はたっぷり笑うわ」
車椅子の利用者さんも集まって、賑やかになってきました。
二番太鼓が鳴って、施設長のご挨拶。
訪問らくご企画のShibahamaも紹介してくれました。
出囃子とともにいよいよ遊馬師匠のご登場です。
まくらでは、落語の仕草やさまざまな登場人物、独特の小道具の使い方を披露、
「ねーねー、お母ちゃんお母ちゃん、ねーお母ちゃん」
「何だい、うるさいねぇ」
で、大爆笑。
「皆さまこれは?」
「扇子!」
利用者さんも一斉に大きな声で答えています。ずずずずーズルッと蕎麦をすする仕草で
「こうすると何だと思います?」
「お箸!」
そんな扇子を少しでも長く使うには…。味噌蔵を営むけち兵衛さんから節約術を習いたい人との問答が始まります。さすがけち兵衛さん、扇子は生涯使うといいます。
「扇子は振るから傷む、扇子を広げて動かさず自分の顔をふるのです」
大きな笑いが響くなか、「なるほど!」と感心しているお客様が。
参考になさるのでしょうか(笑)
本日の演目
「味噌蔵」
登場人物が多い噺です。
主人のケチぶりに疲れた奉公人たちの、お店の帳面を"ドカチャカドカチャカ"やっちゃって〜の宴を目にして、怒り心頭のけち兵衛さん。
味噌が焦げた匂いに大慌て。
続いての演目「百川」
実在した幻の料理屋での、実話とかどうとか。
こちらも遊馬師匠の、個性豊かな登場人物の演じ分けが素晴らしい。
田舎出身の百兵衛さんと魚河岸の若い衆、訛りに早とちりや勘違い、職員さんたちの笑いも弾けます。
皆さんに思いきり笑ってもらって、大きな拍手の後には、利用者さんから師匠へ花束贈呈がありました。
その後、皆で一緒に記念撮影を撮ってお開きとなりました。
「あー楽しかった」
「笑いすぎちゃって」
「お上手ねぇ」
おしゃべりしながらお部屋に帰っていきます。
普段は物静かな利用者さん
「あんな声だして笑うなんて、びっくり!」と
施設長が驚いていました。
遊馬師匠、短い時間に、何人の人物を演じたでしょうか。笑いもたっぷり、登場人物もたっぷりの会でした。
2019年に竣工したアカンサスホール。コロナ禍もあり、なかなか催しができずにいて、真打の落語は、初めての開催。
施設長にShibahamaハンカチをプレゼントとしてお渡しし、ご挨拶すると、「これから、いろいろなイベントをやっていきます」と、マスク越しにもわかる笑顔が素敵です。カフェカウンターもあるこのホールで、地域の人たちを交えて、楽しみが広がりそうです。
(取材&撮影:律筆)
[告知]
11月13日の第四回〔訪問らくご〕の開催レポートを近日公開します。お楽しみに!